2016年4月4日月曜日

[THE REPROBATE] BABYMETALウェンブリー・アリーナ・レビュー

[THE REPROBATE] BABYMETALウェンブリー・アリーナ・レビュー

レビュー:BABYMETAL—ロンドン、ウェンブリー・アリーナ(2016年4月2日)

デヴィッド・フリント(2016年4月3日)




BABYMETALは、一種の音楽的な事件である。ここ2年ほどの間に、"Gimme Chocolate"のビデオがバイラルになったときに、人々を信じられないと動揺させた(そして1年前に"Headbanger!"のビデオでバンドを発見した人々を喜ばせた)何か目新しいバンドから、賞賛され敬愛される存在へと変わった。これは、停滞の度合いを増し続けるメタル・ミュージック・シーンに対する新しい息吹であり、スピード・メタル、Jポップ、そして他にどのような要素が混ぜられているのかは神のみぞ知るような音楽的マッシュアップが、何か新しく、新鮮で、スリリングなもの、現在の英米のポップ・ミュージックにおける退屈さと鈍感さからは大きく離れた世界を実際に創り上げることが出来るのかを示す例である。BABYMETALは使い捨ての目新しいバンドであるという示唆、一部のメタル伝統主義者が必死にすがりついている信仰は、もはや確かに論破された。結局のところ、これは、ロンドンのフォーラムにおける一回限りのギグだろうと誰もが考えただろうところから、数ヶ月のうちにブリクストン・アカデミーへと進み、わずか1年後には、定員12,000人のウェンブリー・アリーナを一杯にしているバンドなのだ。そして最初のフォーラムのギグでのオーディエンスの一部は好奇心からそこに出向いたのだろうが、もはやそれは当てはまらない。BABYMETALは、私が見たこともないような献身的なファン・ベースを持っており、誰もここに斜に構えてきている者は一人もおらず、私がこれまでに見た中で最も多様性に富んだ観客は、このショーの一秒一秒に夢中だった。

そして、まったくそれは正しい。私は一般にアリーナでのショーのファンではないが、BABYMETALは、このような壮大なスケールのショーのために生まれたバンドなのだ。そしてもちろん、英国最大の会場の一つで演奏することは、批判者にとっては「ばかやろー」なのだ。(これをすり込むために、ショーのあるポイントで、ビデオ画面には、スターウォーズにインスパイアされた、ギグやフェスから、ケラング!やメタル・ハマーの賞受賞まで、英国征服の短い歴史を示すメタル・ルネッサンス神話が上演された。)だから私は心のこもっていないアリーナ・ショーの性質についての疑念は脇に置いて、もちろん荒野のまっただ中にあるウェンブリーへと出向いたのだ。

途中で、私たちは唯一のローカル・パブと思えるところに立ち寄った。正直なところ馬鹿げたほどの数のフラットスクリーンTVで全員がサッカーを見ているぶっきらぼうな地元民で一杯の「エステート・パブ」のようなものだ。隅にいた大柄なポーランド人の一団がけんかを始めた時に、物事が活気づいた。一人が平然とテーブルにビールをこぼしたのだ。(このような状況では自分のビールをこぼすのは意味があると思う。)そして、その友人が、それに対してグラスをいくつか床とテーブルで壊してしまった。気の入っていないケンカが続いた。一瞬、大騒ぎになり、私たちは生きてこの場所を出られるだろうかと思い始めた(私たちは、地元の連中とはあまり合わないのだ)。でも最終的に状況は落ち着き、私たちはまずいビールを飲み終えると—ちゃんとしたビール・パブじゃなかった—立ち去ることにした。

ウェンブリーの外の列はすごかった。ありがたいことに雨に呑み込まれながらも、着実なペースで動いてはいたけれども。屋内では、ラジオ1のDJ、ダニエル・カーターがディスクを回していた。アーティストとしてのDJというアイデアはあまりピンとこなかったが、最前列には近すぎず(まともな人間がモッシュにつかまりたいとは思わないだろう)、きちんと見える程度には近い場所を注意して確保しようとしている間に、私たちを楽しませる程度には十分に魅力的な曲がミックスされていた。実際のところ、ステージから張り出し舞台が突きだしていたので、BABYMETALがようやく登場した時には、彼女たちの白目まで見えるほど近かった。

ステージ・セットはふさわしく壮大なもので、私たちがこれまでに見た何よりも、BABYMETALのエピックな日本におけるギグに近いものだったろう。そして演奏はまず欠点はなく、スゥメタル、ユイメタル、モアメタルがいつもどおり、素晴らしい神バンドをバックに、デビュー・アルバム、そしてリリースされたばかりの「Metal Resistance」からのマテリアルを組み合わせて突っ走った。以前のマテリアルはとても人気があり、新曲についてもそう思えた。新譜が一日前にリリースされたばかりだというのに、観客の大部分は新曲にもうかなり慣れていることは明らかだった。

そしてBABYMETALのエンターテインメントの形は素晴らしいが、このショーの喜びの大きな部分はオーディエンスを見ていることにあった。私はこれだけものすごく多彩で、分類不可能な観客を知らない。それがたった一つのバンドによって集められたのだ。ある時点で、私の右側には、かなりの大きさで(とても上品な)サークル・ピットが回っていたが、左側には、5人のレイバーのうち4人が激しく踊っていた。突然何もかもが意味を持った。ベイビーメタルのサウンドを通してちりばめられたスピードやダブステップの味付けがダンス・シーンにとってのこの完璧な音楽を創り上げているのだ。アリーナのそちこちには日本人のファンがいて、ダンスの動きをすべて知っており、バンドに対して、当然理解出来る誇りを抱いていた。この観客全体が、手を宙に掲げ、心からの楽しみと共に、ギグのエンディング・チューンで、ブリクストンのショーでお披露目されて以来、バンドのアンセムとなっている"Road to Resistance"に合わせて歌っているのを見るのはとても印象的だった。

そしてメタル純粋主義者がBABYMETALについて理解出来ないのはこの点なのだ。メタル・ファンの間で引き起こしたあらゆる議論に対して、実際にはBABYMETALはメタル・バンドでは全くない。むしろ、音楽スタイルの頭脳的な衝突であり、メタルはその要素の一つに過ぎない。エレクトロ、ダンス、スカ、そして軍隊音楽さえもその組み合わせの中に含まれており、その結果は素晴らしい。これはジャンルを否定するものであり、おそらくはジャンルを破壊している。みんなのためのものであり、バンドはつまらない、古くさい音楽のしきたりをぼろぼろにして置き去りにするのだ。

このギグを考える時に、いつも頭に浮かび続けたのが「喜び」という言葉だ。観客はこれが大好きだ。バンドはこれが大好きだ。そして3人の十代の女の子たちは楽しい一時を過ごしているだろうし、自分たちが、他の日本のどのバンドも西欧で成し遂げることが出来なかったことを自分たちが達成したということがまだ信じられないだろう。誰もが楽しんでいる。誰も意識してクールであろうなどと心配していない。そして音楽、演奏、そしてビジュアルは神々しかった。これは最高のエンターテインメントであり、これを楽しめるほど自分たちを解放できない、自分たちの狭苦しいジャンルの定義につかまったままの人々を哀れまざるを得ないだろう。誰もがBABYMETALを楽しめると言っているわけではないが、試してみることさえ拒否するどうしようもない考えの連中は、本当に損をしている。

2年前にこのようなギグをBABYMETALがやり遂げるなどと誰も思っていなかったろうが、彼らはやってきて、征服した、この上ないほど容易に、あらゆる疑念を押し潰した。さらに印象的なことに、ショーのすべてが日本の1万人のファンのためにライブ同時放送されたのだ。(日本が何時だったか考えてみると良い。)何カ所かで見た日本ではこのバンドの人気がないという示唆は明らかにナンセンスだ。いずれにせよ、このショーに基づけば、このバンドが更に大きな英国の会場で1年以内に演奏することは賭けても良い。突然、ミュージック・フェスティバルでのヘッドライナーという考えがそれほどばかばかしくは思えなくなってきたし、個人的にはその可能性がとてもうれしくてたまらない。

▼元記事
http://reprobatemagazine.uk/2016/04/03/review-babymetal-wembley-arena-london-2-4-16/


3 件のコメント:

  1. とてもありがたい異文化世界の人からみたBABYMETALのコンサートのレビューだ。とくにおもしろかったのは、いままでは、メタル純粋主義者からの批判を浴びていたBABYMETALを、「実は、ジャンルを否定するものであり、おそらくはジャンルを破壊している。みんなのためのものであり、バンドはつまらない、古くさい音楽のしきたりをぼろぼろにして置き去りにするのだ。」という言い方で、評価していることだ。今まできちっとした音楽ジャンルの枠内でそれぞれのファン層が音楽を聴いていたのを,BABYMETALが壊してきたというわけだ。なるほど、ここまでの評価をしてくれたら、褒めすぎという感もあるかもしれないが、あながちヨイショとはいえないようにも思えてくる。筆者の考え・予想が正しかったかどうかは、今年の世界ツアーの成果をもとにした来年のBABYMETALの活動で結果が出ることだろう。

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  2. 言葉にならない位の素晴らしいレビュー…
    翻訳ありがとうございます♪

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  3. 大部分はagreeだが一点、ジャンル破壊論は異議ありだ。Suがよく語るのはBABYMETAL/kawaii metalを確立することが目標だということ。だからここは黙っていられないんだ。
    kawaii metalは既存のジャンルを自由自在に飛び越える。だが破壊はしない。破壊は否定だ。BABYMETALは誰も否定していない。
    今後も様々に新たな要素を取り込んで変わっていくだろう。このExcitingな変化で我々を楽しませてくれることは間違いないね。

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