2016年6月1日水曜日

[Upset] BABYMETAL:偽のメタルの死

BABYMETAL:偽のメタルの死

アリ・シャトラー(2016年5月31日)




BABYMETALの始まりについては2つの物語がある。一つは、プロデューサーの小林啓が、ジャンルとしてのメタルが古びていくばかりであることに気付き、ヘビーなメタルに甘いポップを組み合わせるべく、中元すず香を中心に、水野由結と菊地最愛と共にバンドを結成したというものだ。このトリオは、しばらくの間、日本のアイドルバンド、さくら学院のサブグループだったが、すず香が15歳で「卒業する」と、BABYMETALは独立した。

もう一つの物語は、大昔にフォックス・ゴッドがヘビー・メタルの守護者となる可能性を持った三人の少女を祝福したというものだ。スゥメタル、ユイメタル、モアメタルの少女たちはそれぞれ、これを達成するための独自の力を持ち、小林はフォックス・ゴッドのメッセンジャーを務める。パワーレンジャーズ(アメリカの特撮戦隊TV番組)の「主張を持った十代」的なやつだ。

あなたがどちらを信じることにするにせよ、BABYMETALが存在する理由があることは明らかだ。とんでもない、どちらの話も本当かも知れない。自分が聞いているものが信じられないからシェアした曲として始まったものは、すぐに何かもっと大きなものへと発展した。フェスティバルへの登場があり、ヘッドライナー・ショーがあり、はしゃぎすぎのデビュー・アルバムがあった。好奇心と疑問は少しずつ、次にどこへ行くのだろうという興奮へと変わっていった。「Babymetal」から2年後、バンドは「Metal Resistance」をリリースし、そういった話を正当化した。日本だけでなく、大西洋の両岸でチャートインし、バンドはまたロンドンのウェンブリー・アリーナで自信に満ちたヘッドライナー・ショーを行い、最終的に55,000人収容の東京ドームで大団円を迎えるワールド・ツアーへ弾みを付けた。だがそれ以上に、「Metal Resistance」は素晴らしいアルバムだ。正統性についての議論は、バンドがエンターテインメントに完全にコミットし、素晴らしい時を生み出している以上、それほど意味はない。呼びたいように呼べばいいが、BABYMETALは長続きするし、もはやその起源は大きな話題の種ではなくなっている。

「私たちはずっと、いろいろな意味で成長しました」と、モアメタルは語り始める。「前より背が大きくなりました」と、ユイメタル、スゥメタルと一緒ににっこりしながらそう付け加える。これはバンドとファンが、インターナショナル・フォックス・デーと名付けた「Metal Resistance」のリリース日の2日前のことだ。この日はまた、「新しいBABYMETALが世界にお目見えする」日でもあった。でも何よりも、ウェスト・ロンドンのホテルのソファーに腰掛けている三人組は、来たるべき騒ぎを前に、落ち着いていて、平静で、気力に溢れていた。

「ファースト・アルバムに対する反応は予想以上でした」と、ユイメタルは語る。「皆さんが本当にとても気に入ってくれたので、セカンド・アルバムでもっと良いものが作れるか自信はありませんでした。ファースト・アルバムを超えられるかよく分からなかったのですが、「Metal Resistance」を聞いてみると、このアルバムは良いアルバムだと気付きました。皆さんに気に入って頂けると思います」

「ファースト・アルバムはちょうど挨拶代わりという感じでしたが、この新譜では、いろいろなジャンルに挑戦しました」と、スゥメタルは言う。権威が高まったことで、BABYMETALは新譜で勝負に出た。特にあらゆる境界に既に触れている場合、変わることはこわい。「このアルバムで、私たちは自分自身に挑戦し、新しいことや新しいジャンルを試しました」と、ユイメタルは説明する。「私たちは前のアルバムからずいぶん成長しました。ファンの皆さんがこのアルバムからこのことを分かってもらえたら、BABYMETALの何が変わったかを本当に理解してもらえたらと思います」

でも変わったのはBABYMETALだけではない。眉をひそめながら見られたにせよ、BABYMETALのシーンをまたぐスタンスは、通常は保守派が支配する世界の扉を蹴り開けた。BABYMETALは別の選択肢への門となったのだ。

「BABYMETALがこれまでメタルを聞いたことがない人たちにとっての入門となっていると聞いてとてもうれしいです」と、ユイメタルは言う。それは三人が良く理解している道だ。「BABYMETALにいなければ、私はいま自分が聞いている音楽を聞くことはなかったかも知れません」と、モアメタルは考える。「私にとってそれ以外のかたちはなかったと思います」 それはバンドが分かち合いたい教育だ。「私たちがこれをできるという事実は、私たちがとても誇りに思っていることです。私は、これからも続けられたらと願っています」

自分たちの世界により多くの人々を迎えようとして、BABYMETALは再び時勢に逆らってきた。「「Metal Resistance」は、BABYMETALが生まれてからやってきたことを象徴する段階にあたります。このアルバムは、さらにこれを押し広げてくれるでしょう」と、伝統的なジャンル分けを拒否するというバンドの決定についてモアメタルは語っている。

「メタル・ミュージックには多くのダークな要素があり、自分たちが不幸に思うことや不満についての歌詞を書いていることは知っています」と、スゥメタルは語る。「BABYMETALは違ったアプローチをするんです」 バンドは、音楽を聞くときに、人々に「もっとハッピーに感じてもらいたいし、何かを乗り越えられると感じて欲しいんです」 「私たちにはそれが大切です。たぶんそれがBABYMETALの音やあり方の理由です」と、この狂乱に意味を与え、スゥメタルは言う。でも伝統に逆らうことは、バンドはまた自分たちの快適な領域から踏み出さなければならなかったということでもある。

「このアルバムで、私たちは新しいことに挑戦したので、大変なこともありました。すべて英語で録音された曲("The One")が1曲ありますが、これは大きな挑戦でした。英語で話すことと英語で歌うことはまったく違うことだと気付きました」と、スゥメタルは説明する。

欧州における日本のバンドであることによるあらゆる謎と文化の衝突について、その多くが別の言語であるという事実は、BABYMETALにとって大きな障害を示すはずだ。ここでも、BABYMETALは障害をものともしなかった。

「もっと小さかった頃」と、モアメタルは言う。「ずっとちっちゃかった頃」と笑いながら付け加える。「私たちはいまでも若いですけど、もっと若かった頃、日本の外の世界はテレビと映画の中にしかありませんでした。とても手が届かない何かだったんです。行くかも知れない場所だなんて思わなかったけど、実際にはいまここにいます。日本からずっと遠くにファンがいると知ることは、本当にびっくりするような感じなんですけど、世界中のもっと多くの人たちに届きたいと願っています」 「私たちは他の人がやっていない何かをやっているんです」

BABYMETALには壮大なビジョンがあり、時間旅行をするチューインガムや通勤列車のモッシュピットの曲の間に、自分たちの音楽で人々を一つにしたいという望みがある。「最初は、そんなことができるだろうなんて思ってもいませんでしたが、海外に行って、私たちを見たこともない世界中の人たちの前で演奏するようになって、言葉は障壁なんかじゃないと分かりました」と、ユイメタルは説明する。「同じ言葉を話せないなんて関係ないんです。私たちは音楽を通じてやりとりし、コミュニケーションを取ることができます。旅をしたあとで、私たちは世界を一つにできるんだと分かりました」

傲慢にも響くが、数日後にウェンブリー・アリーナを見回せば、BABYMETALの旗の下に同盟を結んだ人々で一杯だった。単なる好奇心を超えた、否定できない結びつきが存在した。36時間並んだり、たった一度のヘッドライナーショーのために地球を半周したり、子供たちを初めてのコンサートに連れてきたりして、まずどんなバンドもありえないようなかたちで、BABYMETALに応えた。「唯一の理由は、私たちが他の誰もやっていないことをやっているからだと思います」と、スゥメタルは言う。「私たちは、自分たちがやっていることをやっている音楽シーンで唯一のアーティストであることを誇りに思っており、それがBABYMETALに対して、いまのようなかたちで反応してくれている一番の理由かも知れません」

自分たちが持っている厚かましいほどの自信にもかかわらず、BABYMETALには何か不確かなものがある。大きな夢と少しの恐れ。そう、バンドはムーブメントになったけれども、その中には人間的な要素があるのだ。「自分たちがいまやっていることをやっているのは、METALLICAさんやBRING ME THE HORIZONさんのように影響を持てるようになりたいからですが、それが可能かどうかは分かりません。私たちにはよく分からないことがいっぱいあります。やれるのかどうかは分からないですが、そうなれたらいいなと願っています」と、モアメタルは夢想する。「いつか、ですが」

「本当に最初からいつもいっていたのは、BABYMETALという新しいジャンルの音楽を作りたいということです」と、ユイメタルは付け加える。「いまも取り組んでいることですが、できれば、達成したい目標なんです」

次に何がくるのかについては、「Only The Fox God knows」とバンドは微笑みながら、自分を意識し、冗談交じりで、口を揃えて答えた。さらに触れても、にこりという笑みと分かっているでしょうという表情だったが、その意図について、ユイメタルは「分からないんです。私たちはフォックス・ゴッドの言うことを書き取っているわけではないですから。でもいつかフォックス・ゴッドに会って直接聞いてみたいと思います」と約束した。

「BABYMETALは何か特別なことをやっているバンドだと感じています」と、スゥメタルは言う。「このジャンル、そして音楽全般にとって、とてもユニークなものです。私たちは自分たちがやっていることに自信がありますし、他の誰からも影響を受けずに、やっていることをやりつづけるだろうと思います」

何を言われようと、BABYMETALは折れることがない。書かれてもいないし、予言もできないが、その未来が本当に多くの可能性に満ちている以上、大事から見ればその出自はそれほど重要ではない。でも一つ確かなことは、反応をでっちあげることはできないし、それこそがBABYMETALがもたらすものなのだ。

Upsetの5月号より。注文はこちらから。BABYMETALの「Metal Resistance」は発売中。

http://www.upsetmagazine.com/features/babymetal-death-false-metal/


10 件のコメント:

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  2. 翻訳ありがとう!!
    多くは定型の受け答えとはいえBIGになりつつあるバンドという文脈に置くと、三人はすげえロックしてるなぁ。
    傲慢とも思える強い自信とデカイ目標。バンドの影響がシャレじゃなくなってきたから、周囲がマジで受け取ってくる感じかな。
    謙虚な三人がサラっと、私達は世界をひとつに出来るって語る、何だかすごい。

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  3. Babymetal の過去、現在、そして未来について簡潔で完璧にまとめられている素晴らしい記事だと思います。
    翻訳ありがとうございました。

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  4. OTFGKいうと大人の事情とかせせら笑うむきがメイトにさえあるけど。
    3年後5年後10年後の彼女らをKOBAさえ明確に語れないなら、
    それはOTFGKとしか言いようがないんだよね。それってロックだよね。

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  5. 見出しから久々のBMアンチ記事だと思って期待してましたが、終始、好意的な見解で詐欺にあった気分ですね(笑)
    このタイトルの真意を記事中からくみ取ることがオレには出来ませんでした。

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  6. つまり、本物になってしまった・・・と言いたいのかな?

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  7. 今までに読んだ国内外の記事の中で、一番論理的で読みやすい記事でした。
    翻訳ありがとうございます。

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  8. 翻訳ありがとうございます。
    インタビューの受け答え等に新しき何かがあるわけではないんですが、とても読みやすい内容ですね。
    所々に飾らない記者の本音や細かいもあのつい微笑んでしまうような描写があったり、個人的にとてもよかったです^-^

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  9. 翻訳ありがとうございます。いつも楽しみしています。
    MOAの「ちっちゃかった頃」の表現は微笑ましいですね。
    おっさんになった私でも、外国はTVや映画の中がほとんどですから
    彼女たちは特別な経験をしてると思います。

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    1. 「いまでもちっちゃいよ?」
      「ちっちゃくないですっ」

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