カジュアルなヘッドバンギング
日本のヘビー・メタル文化は君が考えているものとは違う
セザリー・ヤン・ストルシヴィッツ(2016年11月16日)
ヘビー・メタル・ファンの「一かゼロか」という性質について語るとき、ミュージシャンであり映画監督であるロブ・ゾンビは、「『ああ、俺は前は一夏SLAYERに夢中だったんだぜ』なんて誰も言わない、分かるだろう……胸に「Slayer」と彫り込んだ奴にしか会わない」と語った。このことは私たちにロブ・ゾンビに関する二つのことを教えてくれる。ロブは上半身裸のメタルヘッドにたくさん会ったことがある。それからロブはカジュアルな日本のメタル・ファンに会ったことがないということだ。
髪の毛が自分の胸に刻んだ「Slayer」の入れ墨を隠すほど長い、ダイハードなファンも日本には数多くいるが、日本のヘッドバンギングするファンたちの多くは、そこまで熱心ではない。日本人が列を作って、辛抱強く、チケット番号の順に会場へ入るのを待っているのを見れば、メタル・ショーの前からそのことは分かるだろう。ドアが開く一秒前に到着したとしても、早くチケットを買った者ほど早く入場できるのだ。
だが、日本のメタルのポイントは、クラブの中に入ると、秩序は後退し、カオスが支配する点だ。最初のギター・コードが弾かれたところで、日本のメタル・ショーはヘッドバンギング、スクリーム、そして暴力的なモッシュの熱狂へと爆発する。
そして、観客の中には多くの場違いに思える人々、しばしばスーツケースを体の近くに寄せ、アイロンを掛けたドレスシャツと折り目を付けたパンツをはいた髪の短いビジネスマンの姿が見られるだろう。何年も前は、私もそのうちの一人だったし、バッグを手にしていた理由は、翌日仕事で提示しなければならない重要な文書が中に入っていたからだ。だが、コンサートにたどり着く頃には、コインロッカーは皆ふさがっていて、ファイルをモッシュピットまで持って行かざるを得なかった。
だが、私はファイルのことを気にしていたが、日本のファンにからかわれるとは心配していなかった。一つには、コンサートでカラー付きのシャツを着ていたのは私だけではなかったからだ。こうした人々は、日本のメタル・ファンダムのあまり知られていない顔だ。黒しか身につけないわけでも、毎日メタルを聞くわけでもないかも知れないが、彼らもまた日本のヘビー・メタル文化の一部となっている。そして、彼らは全体を代表するわけではないが、日本のメタル・ファンの多くと、いろいろと似ているところがある。
こうしたファンの一人である奈々子は、「メタルは私が楽しむ唯一の音楽です。耳だけではなく、全身で聴いているように感じます。でも、メタル音楽がすべてというわけではないので、自分の人生だとは呼べません。ただ同時に、メタルが趣味だというのも正しくないように思います」と説明する。
言い換えれば、日本のヘビー・メタル・ファンは、この音楽をシリアスに取り扱っているのは確かだが、それを自分のアイデンティティーそのものとする必要は感じていないということになる。これは、元MEGADETHのギタリストであるマーティ・フリードマンに日本移住を決意させた理由の一つだ。
有名なスラッシュ・バンドを1999年に離れると、フリードマンは、日本に新しい故郷を見出し、今ではヘビー・メタルのミュージシャンというよりも、おかしなTVパーソナリティーとして知られている。フリードマンは、「ヘビメタさん」という番組からスタートしたのだが、これはメタルやハード・ロックの文化を諷刺するものだった。西洋で人々がメタルをどれだけシリアスに考えているのかについて飽き飽きしていたというフリードマンにとってはぴったりだった。メタル音楽が嫌いだという訳ではない。実際、彼の2014年のアルバム、「Inferno」は、フリードマンのこれまでで最もヘビーなアルバムと呼べるだろう。だからといって、フリードマンがBABYMETALのようなポップ音楽を楽しむことを止めるものではない。
BABYMETALはヘビー・メタルとアイドル音楽の融合で、後者はまずカワイク、若いスターのタマゴが、あたりさわりのない、甘いポップスを歌うことに焦点を当てている。BABYMETALは若い歌手(バンドが最初に結成された時、11歳の子もいた)のこのコンセプトを採用したが、甘い音楽をメタルのリズムと攻撃的な歌詞で置き換えた。
2013年にBABYMETALは、アジア最大のヘビー・メタル・フェスティバル、ラウド・パークではじめて演奏した。マーチャンダイズのブースのせいで、あの年のことは決して忘れないだろう。私が出向いたラウド・パークはすべて、Tシャツ、CD、ショーのプログラムなどを買うためのものすごい行列ができていたが、2013年にこの行列は2つに分かれていた。一つはBABYMETALのグッズのための列、もう一つはBEMEMOTHやイングウェイ・マルムスティーンのようなヘビー・メタルの伝説を含む、世界中からやってきた10数のバンドのための列だった。BABYMETALの列の長さは、もう一つの列よりも軽く2倍を超えており、考えられるあらゆるファン、すなわち、男女、十代、高齢者、そしてたまにドレスシャツを着た単発のビジネスマンなどで構成されていた。
マーティ・フリードマンはBABYMETALの大ファンだとされているが、海外のメディア向けのインタビューでこのことをたずねられる場合、根本的な質問はいつも同じだ。「三人の少女たちがメタルをやっている音楽をどうして楽しめるのか?」 彼の答えもいつも同じだ。「もしメタルに対する愛情が十分に強ければ、BABYMETALを楽しむことを止めるものは何もない」
メタル音楽についてファンダムが非常にシリアスになっている海外では、いまだに物珍しい何かだとみられているが、これはたぶん、女性中心のメタル・バンドが西洋に入り込むにはより良い批判ということになるだろう。だが日本では、ダイハードなメタルヘッズが、誇りを持って自分たちのBABYMETALに対する愛情を公言している。
「メタルは俺の人生だ」と中部日本からやってきたメタル・ファン、竜之介は言う。「仕事に全身全霊を傾けている理由は、そうすればもっとCDが買えて、もっとコンサートにいけるからだ。そして俺は心からBABYMETALを愛している。素晴らしいパフォーマーであり、メタルとアイドル音楽を融合することに成功した。次に何をやってくれるのか待ちきれないんだ」
やはり日本人のメタル・ファンであるタケルは同意する。「俺は彼女たちの音楽が大好きだ。かわいいけど、彼女たちはまた素晴らしいパフォーマーでもあるし、これはとても独創的なコンセプトで、とにかく楽しいんだ。そのどこが悪い?」 まったく悪くない。多くの西洋のファンは、BABYMETALが好きでないかも知れないが、その理由が「典型的な」メタル・イメージに合っていないからだということを考えるべきだ。そしていつからヘビー・メタルというのは人と合わせる話になったんだ?
▼元記事
Casual Headbanging
「昨日の今日」どころか「今日の今日」という凄まじい対応の速さ。
返信削除本当にありがとうございます。
ここ数日で一通り自分で読んではいたのですが、
自分の今の英語力での翻訳完成度は65%~75%位ですかね。
音楽用語や楽器関連用語はギター経験者なので結構わかるんですけどねぇ・・・。
好意的だし面白い視点の記事ですね。
返信削除共有して頂いていつもながらに感謝です。